引越し話。

いよいよ帰路。予定外の事で時間を食ってしまったため、某Mサービスエリアに寄って昼食を、という話になりまして。やれ温泉付きだの某有名人プロデュースレストランだの、と研を競うかのような西行きの高速道SAと違い、どうにもほんのり「いかにも昔のサービスエリアでございます」という香りの漂うそのサービスエリアで、粛々と食券を購入した私たち。厨房の中には、いかにもパートでございます、という仏頂面のおばちゃんと、とても料理など出来そうにないようなおじさんと、やる気無しオーラがそこそこ広いフロア全体に向けて凄まじい出力で発散されている青年がのったりと動き回っていたもので。それを見て「うわーこれは期待できないぞ」(ま、本来サービスエリアの食に期待する方が間違っているんでしょうが)と判断した私は、どうせならいっそ思い切って!とハンバーグカレーをオーダーしたんですね。何だかこう、あるじゃないですか、毒を喰らわば何とやら、というか、いっそのことコッテコテな“ダメ物件”に挑戦したくなる人間心理って。うはは。
ちなみに、オットは葱ラーメンをオーダーし、それにミニチャーハンを付けて、むん子に食べさせるという戦法を選択いたしました。で、いよいよ順番が来て、「はい168番の番号札ぁー」とおばちゃんの高圧的な声に招き寄せられてカウンターへと向かったオットが目にしたものは・・・刻み葱がどどんと乗った、インスタントラーメン(サッポロ一○塩ラーメン)の姿でありました。
「うわー、これはやっちゃったねえ」
と、語尾に音符マーク大量に貼り付けてはしゃぐ私。想像通りのダメっぷりに、ハンバーグカレーへの更なる期待も高まろうというものでございます。
「はい、170番」
そして、私の眼前に登場したのも、正に期待を裏切らぬナイス物件でございました。ルーもハンバーグも、あからさまにレトルト。そして、炊飯器の中でじっくり蒸しあげられたお粥のような米飯。うわー、素敵素敵(もうやけくそ)。
このハンバーグカレーがいかに酷かったかと申しますと。なんと、挽肉大好きのむん子の口元に持って行ったら、あれほど食に執着するムスメが、その物体を「いやッ」の一言の元に却下!そして、後になって私は、むん子の野生の嗅覚に慄然とするのでありました。
そう、なんとも恐ろしげなカレーをそれでも何とか半分食べて、再度車に乗り込んで帰宅した私は、見事に食あたりを起こしたのでございます。
実は事前に、近所に住む私の実家の母に、「流石にこの日はしんどいと思うので、夕食は何とかして欲しいんだけど」と打診しておいたんですね。で、普段なら私の頼みは即却下のうちの母ですが、オットにはいい顔をしたいもんですから、
「あらそうそりゃあお引越しも大変だしねぇそれならその日は家族みんなで食べにいらっしゃい」
などと調子の良い事をぶっこいてくれまして(っていうか!うちの母って、週に2回はうちで晩飯食ってるんだよ!この引越しの前日も、「家を空けるなら冷蔵庫も空にしといた方がいいんじゃない?」と言いながらざんざか食って帰ったんだよ!・・・ま、その辺の話はまたおいおい)。
で、「ほうらT君とむん子とアンタの大好きなご飯作っておいたからねえ、たっぷりお食べなさいねえ」
と、恩着せがましくどどんと食卓に出されたのは、お鉢にいっぱいの櫃まぶし。オットの実家が浜松の近くなので、毎年とても美味しい冷凍のうなぎを送ってくれるのですが、どうやらうちの母、オット方面にいい顔をしたいがために、一世一代の大盤振る舞いをしてくれた模様でございまして。うはは。
ああ!それなのに!この!この鉄の胃を持つわたくしが、大好物の櫃まぶしを一言も口にするあたわず、ただひたすら呻きながら床にうつ伏せているだなんて!
この日は父も家に居たのですが、日頃からふたり揃って娘に向かって「いい加減痩せてくれ、ダイエットしてくれ、何なら断食してくれい」と口を揃えてぐちぐち言っている両親が、流石に
「おい、一口も食べないなんて、大丈夫なのか?」
と心配する有様でございました。まあもうその苦しかった事と言ったら・・・。そして、何度もうえっぷとこみ上げてくる厭なゲップの残り香は、間違いようも無くあのハンバーグの、そう、むん子が見事に猫またぎしたあのハンバーグの匂いだったのでございますよ!
結局、ほぼ24時間、水以外のものを口に出来なかった私。もうしんどくてしんどくて、翌日の荷受けも全部オットに任せきり。しかし、オットはオットで、連日の運転でへとへとに疲れており、最低限の事しか出来ず・・・かくして我が家は、引越し荷物のダンボールに占拠される事になってしまったのでありました。ええ、たった6つの荷物ですら、典型的狭小住宅の我が家にとっては大変な場所ふさぎ。これ、一体どうするんだか・・・。
え?まだ続くの?はい、あとちょっとだけ続くんです。スミマセン。ああもうッ!