春というより初夏の陽射しの中、娘の手を引いて街を歩く。娘は、道端の花の色をひとつひとつ口に出して確認したり、頭上の咲き残った桜を見上げて「きれいねー」と声をあげたり。そして、それにひとつひとつ応えを返さねばならない事を、ほんの少しうっとおしく思いながら楽しんでいる私。
間違いなく、数年前までは「いくら望んでも一生手に入らないだろう」と覚悟していた幸せのかたち。花の前にしゃがみ込む時に一度はするりと放したその手が、まるでそこにあるのがすっかり当たり前で消える事など想像だにしていない確かさで、目もくれずに私の指先を探ってきゅっと握り直す時、その絵に描いたような幸福に立ち眩みしそうになる。
ごめんね。
「いいねえ、いいねえ」と二人でお散歩する事の楽しさを無邪気に口にするおまえを見て、いきなり泣いてごめんね。
涙が出るのは悲しい時だけではないんだよ。びっくりさせてごめんね。